ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 フーゲンベルク公爵家の屋敷は武骨な石造りとなっていて、屋敷と言うより城と言った方がしっくりくる。王城と規模は比べ物にはならないが、公爵家の屋敷は長い歴史を感じさせた。

 その屋敷のエントランスホールへとリーゼロッテたちは足を進めていた。裏庭から細い廊下へ入り、ホールを目指す。

 エントランスに辿りつくと、ジークヴァルトはちょうど戻ってきたところのようだった。こちらに背を向け、公爵家家令のエッカルトと何か話をしている。エッカルトは白髪交じりの好々爺といった感じの人物で、細い目がやさしい印象のおじいちゃんである。

「ジークヴァルト様、お帰りなさいませ」

 きりのよさそうな所を見計らって、リーゼロッテは遠慮がちに声をかけた。

「ああ」

 振り向くとジークヴァルトは、無表情のままリーゼロッテの頭に手を乗せた。

 公爵家に来てからも、ジークヴァルトの子供扱いは相変わらずだ。恥ずかしいと思いつつ、リーゼロッテは素直にその手を受け入れている。

 十五の誕生日を迎えてからリーゼロッテは気がついたからだ。ジークヴァルトはこうして触れながら、いつも力の流れを確認しているということに。

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