ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは十五歳になってから、昼夜関係なく力を引き出せるようになった。

 守り石がなくても異形の者が見えるようになったし、石を外して眠りについても、以前のように守護者の強烈な力が解放されることもなくなった。それに伴いへんてこな夢を見ることもあまりない。

「今日も駄々漏(だだも)れてるな」

 ジークヴァルトは確かめるように言うと、リーゼロッテの髪からするりと手を離し、どこからともなく取り出したクッキーをリーゼロッテの口に押し込んだ。

 ふいのジークヴァルトの攻撃にリーゼロッテはまったく対応できない。詰め込まれたクッキーを、もごもごと咀嚼するのが精いっぱいだ。

(淑女のたしなみが……)

 やや涙目になりながら、リーゼロッテは黙ってクッキーを飲み下した。

「問題はなかったか?」

 この問いはエマニュエルに向けられたものだ。ジークヴァルトは自分の目が行き届かない場合、使用人たちに逐一リーゼロッテの行動を報告させる。

「はい、旦那さま。先ほどまでジョンのところにおいででしたが、時に危険なことはございませんでした」

 エマニュエルはリーゼロッテに生温かい視線を送ったあと、ジークヴァルトに向き直った。

(のび〇君を見るドラ〇もんのような目で見ないでほしい……)

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