ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 公爵家に来てからと言うものの、屋敷中の者たちはこんな感じの視線をビシバシ送ってくる。先ほどから、家令のエッカルトも何とも言えない慈愛の表情で、ジークヴァルトとリーゼロッテのやりとりを見守っている。

 リーゼロッテはそれがどうしようもなくいたたまれなかった。

「ですが今日のジョンは、リーゼロッテ様のお言葉に少し笑顔になっていましたわ」

 そのエマニュエルの言葉を聞くと、ジークヴァルトはわずかだがピクリと眉を動かした。

「そうか」

 それ以上の反応は見せず、ジークヴァルトは再びリーゼロッテの頭に手を乗せた。するりと髪をなでていく。

「執務室で待っていろ。今日も特訓だ」
「はい、ヴァルト様」

 ジークヴァルトは最後にひとなですると、リーゼロッテの髪をひと房さらいながら手を離した。それを気にするふうでもなく、リーゼロッテは去っていくジークヴァルトに淑女の礼で見送った。

「では、先に旦那様の執務室に参りましょうか」

 エマニュエルがリーゼロッテを促した。

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