ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークヴァルトを幼少期から知るエマニュエルは、リーゼロッテがやってきてからの彼の行動の数々にも、内心目を見張っていた。

 屋敷の者たち全員が思っていることだろうが、最近のジークヴァルトは、これは一体誰だ?レベルである。しかもレベルマックスだ。

(龍の託宣とは恐ろしいものね)

 本人の意思など関係ない。龍に決められた者たちは、お互いを求めずにはいられないという。それはもう呪縛のように。先代公爵の妻への執着も目が当てられないほどだった。

 エマニュエルはリーゼロッテを伺い見た。

(龍が選びし清廉(せいれん)な気を(まと)う者……)

 惹かれ合うのは本人の意思とは関係なく、大きな力によるものだとしても。

(だとしても構わない。あの方の心が救われるというのなら――)

「リーゼロッテ様。これからも旦那様のこと、よろしくお願いいたします」

 エマニュエルの突然の言葉に、リーゼロッテは少し驚いたように振り向いた。

「……ええ、もちろんですわ」

 ふわりと浮かんだ淑女の笑みには、どう見ても苦笑いが含まれている。託宣の相手同士は、どうも男の方が思いの比重が大きいらしい。

(旦那様、もっと頑張りなさいませ)

 エマニュエルの心の声は公爵家使用人たちの総意だった。

 リーゼロッテがやってきてからというもの、残念な朴念仁に仕上がってしまった主人のために、公爵家の者たちはみな浮足立ちまくっているのであった。

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