ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 例えて言うなら、霧を集めて水にしろと言われているようなものだ。霧を掴んだところで、水ができるはずもなく……。

 リーゼロッテは異形の浄化を目標に、公爵家へと意気揚々と乗り込んだ。なのに、浄化どころか、小鬼一匹追い払うことができないままだ。結局はいまだ、ジークヴァルトの守り石のお世話になっている。

 う わ ー 、宝 が 持 ち 腐 れ て る 。

 幻聴(げんちょう)が聞こえてくる。もちろんカイの声だ。

(このことが知れたら、絶対に笑われる!)

 リーゼロッテは涙目になりながら、さらに手のひらに集中した。

 ぐぬぬぬぬ、とリーゼロッテの眉間のしわが最高潮に達したとき、何の前触れもなくがっちりと顎を掴まれた。驚いて顔を上げると、間髪入れずにジークヴァルトがクッキーを口に押し込んでくる。

 むせて「ごふっ」と淑女にあるまじき声が出てしまったのは、リーゼロッテのせいではないはずだ。

「ヴぁるとさま、いきなりなにをなさいむぐっ」

 顎を固定されているため、続けざまにクッキーを差し入れるジークヴァルトの攻撃を止めることはできなかった。違った意味で涙目になったリーゼロッテは、もごもごしつつ恨みがましそうにジークヴァルトを見上げた。

 最後に紅茶を渡され、ようやく口の中が自由になる。思わずふぅぅと大きく息をはいてからリーゼロッテは我に返った。

(またしても淑女のたしなみが……!)

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