ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 マテアスに連れられながら、エラは公爵家の屋敷内を歩いていた。公爵家は広すぎるため、慣れない使用人が年に数人は行方不明になるらしい。

 実のところ、リーゼロッテはやってきて一週間目に屋敷内で遭難しかかった。人海戦術ですぐに見つかり事なきを得たが、それ以来ふたりは決して案内人からはぐれないよう注意を払っている。

「エラ様、申し訳ありません。みなエラ様のことが好きすぎて悪気はないのですよ」

 細い糸目で見下ろしながらマテアスが申し訳なさそうに言った。

「謝っていただくなんてとんでもないです。よくして頂いてこちらが感謝しなくてはなりませんし。ですが、なぜみなさんにわたしがこんなにも好かれているのかよくわからなくて……」

 困惑しながらエラは首をかしげた。

「エラ様はお美しいのに少しも偉ぶらない方なので、みなが好意をもつのも仕方がありませんよ」

 マテアスは細い目をさらに細めて楽しそうに言った。

「は? リーゼロッテお嬢様ならともかく、わたしなんかがそんな」

 エラはすらりとした体形で凛とした印象がある。リーゼロッテが恥をかかないように、立ち居振る舞いなども侍女として日々気を使っているのだ。

 だが美人と言うとどうだろう? エラは茶色ががった赤毛に鳶色の瞳をしている。色は白いがそばかすが残る顔は、不美人ではないにしても正直どこにでもいる容姿だと、エラ自身は思っていた。

 そんな様子のエラを見て、マテアスはくすりと笑った。

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