ふたつ名の令嬢と龍の託宣
(エラ様は無知なる者ですからねぇ。視える者にとってあなたはとても心地よいのですよ)

 視える者は常に異形が見えるので煩わしい毎日を送っている。場合によっては(まと)わりつかれたりして、鬱陶(うっとう)しいことこの上ない。

 その点、異形の者は無知なる者にあまり近づこうとしないため、無知なる者の周りはかなり空気が美味しいのだ。そばにいてとても心地いい。ほっとするしずっとそばにいたくなる。

 視える者だらけの公爵家で、無知なる者であるエラの存在は癒しの女神のようだ。マテアスは真実を言うことはせず、静かに微笑みだけを返した。

「あの、マテアス様?」
「わたしに敬称は必要ありませんよ」

 マテアスは下がった困り眉をさらに下げた。

「ではマテアス。わたしのこともエラと、様は付けずに呼んでください」
「いいえ、あなたはエデラー男爵家のご令嬢です。一介の使用人であるわたしが呼び捨てになどできませんよ」
「父は運よく爵位を賜りましたが、一代限りの栄誉です。わたしが爵位を持っているわけではないですし、いずれは平民となる身。どうぞ呼び捨てにしてください」
「そうだとしても、今現在、エラ様は立派な貴族のご令嬢です。ご命令と言えどそれはどうにも聞き入れられませんねぇ」

 糸目でにっこりと(さと)されて、エラは言葉に詰まってしまった。ダーミッシュ領では身分など気にせず、使用人同士で和気あいあいと過ごしていた。自分を貴族令嬢として扱う者などいなかったので、ここでの扱いに面食らってしまう。

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