ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 公爵家に用意されたリーゼロッテの部屋の前まで来ると、マテアスは扉のちょっと手前で立ち止まった。手で歩みを制するようにされたので、エラもその後ろで足を止めた。

 マテアスの目の前には、甲冑を身に着けた大男がいた。その男は扉に額を押し付けるようにして仁王立ちしている。

「ああ、カークはどこにいても邪魔ですねぇ。エラ様、申し訳ありませんが、部屋に戻る前に少しお時間をいただいてもよろしいですか?」

 前半の言葉を独り言のように言った後、マテアスはエラを振り返った。

「はい、もちろんです」

 戻る前に何か話があるのだと思い、エラは神妙に頷いた。しかしマテアスはにっこりと笑みを返すと、扉の方へと向き直った。

「さて。害はないとはいえ、このままエラ様にお通り頂くのも気が引けますしねぇ。ちょっと手荒ですが、そこはそれ、致し方なしということで」

 マテアスは扉の脇によると、人差し指を立ててくるくると何度か動かした。

「せっかく意固地をやめたんですから、遠慮と言うものを憶えましょうねっ」

 その言葉と共にくるくるしていた指先を、仁王立ちしている男の肩へとちょんと触れさせる。男がピクリと反応した次の瞬間、男は壁伝いに廊下の先へと吹っ飛んでいった。

「おお、よく飛びました。不動のカークの名が聞いて呆れますねぇ」

 男が吹き飛んだ先をみやってから、マテアスはゆっくりとエラを振り返った。

「エラ様、お待たせしました。リーゼロッテ様はもうお戻りになられていますよ」

 そう言いながら部屋をノックする。「では、わたしはこれで」とマテアスは笑顔を残して去っていこうとした。

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