ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そんなとき扉が開いてエマニュエルが顔を出した。

「エラ様、お帰りなさいませ」
「エマニュエル様」
「リーゼロッテ様はもうお戻りですよ。エラ様もお疲れになったでしょう」

 エマニュエルがエラを部屋の中に誘うように一歩下がった。

「それではわたしはこれで失礼します、エラ様」

 エラを部屋の中へ誘導すると、マテアスはその手を離して丁寧な手つきで扉を閉めた。エラはしばらくその扉を無言でじっと見つめていた。

「マテアスが何か粗相をはたらきましたか?」

 不意にエマニュエルに後ろから問いかけられて、エラはあわてて振り返った。

「いいえ、マテアスには親切にここまで送ってもらいました。ただ、独り言を言ったり、ちょっと変わった人だなと思いまして……」

 エラは曖昧に笑顔を返す。先ほどマテアスは扉に向かってぶつぶつ何か言っていたが、意味はよくわからなかった。頭は切れるが、マテアスはすこし変わり者のようだ。

 しかし、物腰も柔らかくよく気が利くマテアスは侍従として有能だ。侍女として見習いたいところがいっぱいあり、尊敬できる人物でもあった。

「ふふ、そうね。あの子はちょっと変わり者ね」

 エマニュエルは扉の前にいた異形の者を思い出して、マテアスが何かしたのだろうと思い当たった。エラは無知なる者と聞いているので、彼女にカークは視えなかったのだろう。

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