ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 廊下へ出て少し進むと、先ほどマテアスに飛ばされた異形の者――カークが吹き飛ばされたそのままの格好で、廊下の端に転がっていた。

「どこにいてもカークはカークなのね」

 ちょっと邪魔そうに避けて通り過ぎようとする。数歩通り過ぎ、エマニュエルはカークを振り返って見下ろした。

「本当にあなた、リーゼロッテ様がおっしゃるようにふてくされていただけなのね。今度はそこで何百年も過ごすつもりなの?」

 エマニュエルが冷ややかに言い放つと、カークはピクリとその身をふるわせた。そのあとむくりと体を起こしたかと思うと、無言でゆらりと立ち上がった。

 そのままいそいそと扉の前まで歩いて行く。先ほどと同じように扉に額を押しつけると、カークは仁王立ちのまま再び動かなくなった。

(旦那様のお力で部屋の中には入れないようね)

 それを見届けると、エマニュエルは踵を返して歩き出した。

 カークはリーゼロッテに動かされた。泣き虫ジョンと一緒で、カークも何百年も前から公爵家にいた異形の者だ。不動のカークの名の通りに、ずっと同じ場所に立っていただけの異形だった。

(本当に不思議なお方だこと)

 エマニュエルはリーゼロッテを思い、くすりと笑いながら廊下を進んでいった。

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