ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 リーゼロッテが初めてカークに会ったのは、公爵領に来て数日後のことだった。

 その日リーゼロッテはエラと共に屋敷内をマテアスに案内されていた。公爵家の屋敷は城のような造りで、長い歴史とともに改増築されているためか、かなり複雑に入り組んでいる。

 フーゲンベルク家は庭の敷地を含めると広大な土地で、王都にこれだけ大きな屋敷を持つのは公爵家ならではと言えた。

 マテアスに連れられ屋敷の廊下を歩いていると、廊下の窓からふとにぎやかな開けた庭が見えた。使用人が大勢行きかい、遠目からも活気ある様子がうかがえた。

 庭と言っても広い道が真ん中を通っており、馬車の車輪の跡がいくつも残されている。恐らく物資や資材を搬入するための裏通りなのだろう。

「ねえエラ、見て。あの方は何をされているのかしら?」

 リーゼロッテの視線の先には、広い馬車道のど真ん中で大男が突っ立っていた。あんな場所で立っていては危ないのではないだろうか?

「あの方とはどの方でしょう?」

 エラはリーゼロッテの視線の先を見た。しかし特にそれらしき人物は見当たらない。使用人たちが忙しそうに行きかっているのが目に入るだけである。

「ほら、あの道の真ん中で立っている……」

 そこまで言ってリーゼロッテは言葉を止めた。あんなに目立つ人物にエラが気づかないとは思えない。しかしエラに見えないというのなら――。

「い、いいえ、何でもないの。わたくしの気のせいだったみたい」

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