ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 三人は屋敷の裏口を通って、先ほどの馬車通りへとやってきた。通りはやはり活気に満ちていて、使用人の多さに驚かされる。

「こちらの敷地は使用人の居住区も兼ねておりますので、お見苦しいところもあるかと存じますがご容赦ください」

 マテアスが説明しながら歩いていく。突然のリーゼロッテの登場に、使用人たちはみな驚いて礼を取り飛びあがらんばかりに感激した。

 フーゲンベルク家は、異形が視える者の雇用を積極的に行ってきた。視える者が視えざる者の中で生活するには、奇異の視線を向けられ生きづらい面がある。

 公爵家は雇用も安定しているし、何より視える者同士気兼ねはいらない。仲間意識が強くなるのも頷けるというものだ。親子代々仕える使用人も数多く、フーゲンベルク家はかなりの大所帯になっている。広い土地があるからこそできることだが、そこはちょっとした町の様相をしていた。

 仕える主人はぶっきらぼうだが、使用人を身を挺して守ってくれるような人だ。大きな力を持ちながらも、奢ることなく真摯にみなのことを考えてくれている。

「旦那様をどうかよろしくお願いいたします」

 リーゼロッテは公爵家の使用人たちから、何度もこの言葉をかけられた。そのたびにリーゼロッテは嫌な顔一つせず、淑女の笑みを返し続けた。

「ヴァルト様はみなにとても慕われているのね」
「意外でしたか?」

 リーゼロッテの言葉にマテアスは静かに口元をほころばせた。ジークヴァルトはあれでいて面倒見がいい。みなの声に耳を傾け、力になることを惜しまない。

(まあ、リーゼロッテ様に人気を取られるのも時間の問題そうですが)

 リーゼロッテの纏う力はとても神聖で、視える者には恐れ多く感じてしまう。そんな彼女の微笑みに、使用人たちはみな一発でノックアウトされていた。

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