ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 なんといえばいいのだろう。子供の頃に覚えのあるような感覚だ。親に叱られ、押し入れにこもったときにこんな感じにならなかっただろうか?

 リーゼロッテは首をかしげた。

(そうね。意固地になって閉じこもって、もう出ていきたいけど、でも恥ずかしくて素直になれない……。まるでそんな感じだわ)

 リーゼロッテはじっと男を観察するように見つめた。よく見ると馬車の(わだち)の跡は男を避けるように左右に引かれている。使用人たちはその男に注意を払うこともなく、ただ置いてあるオブジェのごとく扱っているようだった。

「あれは邪魔ではないのかしら?」
「すこぶる邪魔ですねぇ」

 独り言のようにつぶやいたリーゼロッテに、マテアスがしみじみ返した。

「あれは不動のカークと言って、何百年もあそこでずっと立っているのですよ」
「何百年も!?」

 思いのほか大きな声が出てしまい、リーゼロッテは慌てて周りをうかがった。先ほどまで隣にいたエラは、少し離れたところで調理場の使用人と思われる者と話し込んでいる。

 マテアスとの会話は聞こえてはいないようだ。ほっと息をつき、リーゼロッテはマテアスに向き直った。

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