ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「カークと話はできるのかしら……?」

 王城で会った鎧の大公を思い出して、リーゼロッテはつぶやいた。あれだけはっきりした形をとっている異形なら、カークとも話せるかもしれない。

「いいえ、カークは立ち尽くすだけの異形です。押しても引いても全くの無反応なのですよ」
「まあ、そうなのね。……少し近づいてみてもいいかしら?」
「はい、今は馬車が通る時間でもありませんので大丈夫ですよ。ただしお力だけはお使いにならないでくださいね」

 主に叱られてしまいますので、とマテアスはウィンクらしきものをした。糸目のマテアスは、もともと目が開いているかもわからない。あれできちんと見えているようだから驚きだ。

 そんなことを思いながら、リーゼロッテは不動のカークに近づいて、その正面に立った。

 見上げるほどの大男だ。簡素な甲冑を身に着けて、鍛え上げられた体躯をしている。古い時代の戦士なのだろうか?

 無精ひげに厳めしい顔つきで少し先の地面の一点を凝視しており、リーゼロッテが下からのぞき込んでも微動だにしない。

 ふと思って、視点が合いそうな場所に移動してみる。すると、なんとなく視線をずらされたように感じた。再び足をスライドさせて移動してみる。やはり視線がずれたようだ。

 リーゼロッテはこてんと首をかしげて、何度か同じようにのぞき込んでみた。カークからじりじりと焦りのような感情が流れてくる。

「ねえ、あなた。いつまでそこでふてくされているつもりなの?」

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