ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 責める口調にならないように、極力やさしい声で問うてみた。その瞬間、目の前の異形から図星を刺されたときのような、怒りとも羞恥ともとれる気持ちがぶわりとふくらんだ。

「あなたはどうしてここに立っているの? 理由があるのなら教えてくれないかしら?」

 リーゼロッテのその言葉に、ふたたびふてくされた感情が戻ってきた。お前に言ってどうなる。どうせわかってはもらえない。そんな意固地な感情だ。

 リーゼロッテは小首をかしげたあと、じっとカークの瞳を見つめた。

「あなたが望むものは何? 初めてここに立った時、何を求めていたのか思い出せる?」

 物事にとらわれすぎると、目的と手段が入れ替わってしまうことがある。いわゆる本末転倒というやつだ。思いや動機が強いほど、固定観念に縛られる。その年月が長いならなおさらだ。

 カークからは動揺や戸惑い、そして不安に揺れる心が流れてきた。

「焦らなくてもいいわ。あなたはずっと耐えてきたのでしょう? きっと誰にもわからないくらい、ずっとずっと長い間……」

 しばらくの後、カークから言葉にならない感情が溢れてきた。

 ――守りたいものがあったのだ

「そう。あなたには守りたいものがあったのね」

 ――だが守れなかった
 守りたかった。大切なそれを守りたかった。なのに。

 ――それがなんだったのかさえ思い出せない

 それは悲しい感情だった。守りたいと、あんなにも強く願っていたはずなのに。

 悔恨、懺悔、羞恥、自責、堂々巡りのように負の感情がぐるぐると回っている。今さら取り戻せない。何もかもが手遅れだ。

< 494 / 678 >

この作品をシェア

pagetop