ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテが歩き出すと、カークもその後を追ってゆっくりと動き出した。活気に満ちていた通りが、波が引くように静寂へと変わっていく。

「り、リーゼロッテ様……?」

 後ろで一部始終を見ていたマテアスが、信じられないものを見るように目を見開いた。見開いた目は相変わらずの糸目であったが。

「カークはここから動いてくれるそうよ。ちょっと意固地になってふてくされていただけみたい」

 周りにいた者たちの顎が外れんばかりに開く中、リーゼロッテはにっこりとマテアスを振り返った。なんてことはないようにリーゼロッテが言うと、カークは気恥ずかしそうに頬をポリポリとかいた。

「そろそろ戻りましょう」

 マテアスの先導のもと、リーゼロッテは歩き出した。その後ろにカークが着いていく。話が終わったエラが途中で合流したが、驚愕で固まっている周りの様子に眉をひそめた。

「お嬢様、何かあったのでしょうか? 周りの様子がおかしいような……」

 カークが見えないエラに理由を話せるはずもなく、「そうね、何かあったのかしら?」とリーゼロッテは曖昧に頷いた。

「ははは、本当に何があったのでしょうねぇ」

 マテアスの乾いた笑いに、エラはますます眉をひそめた。

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