ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
「で、それは一体何なのだ?」

 ジークヴァルトが無表情で問いかけた。執務室の机に座って書類仕事をしていたが、さすがにその手は止まっている。

「何って、カークですわ。ヴァルト様もご存じでしょう?」

 リーゼロッテは、不思議そうにこてんと首をかしげた。ジークヴァルトは目線をずらすと、マテアスに同じ言葉をなげかけた。

「で、それは一体何なのだ?」
「何と言われましても、カークですねぇ。旦那様もご存じでしょうに」

 ジークヴァルトの眉間にしわが寄る。

「カークはちょっといじけていただけですわ。ですが、これから自分探しの旅に出ようと、勇気をもって足を踏み出してくれたのです」

 リーゼロッテはカークをかばうようにその手に触れた。ジークヴァルトの眉がぴくりと動く。

「わたくしが責任をもって面倒見ます。しばらくはわたくしの部屋にいてもらうつもりですし、粗相をしないようきちんと見ていますから」
「却下だ」

 ジークヴァルトの眉間のしわが深くなる。

(この流れはまずいわ。なんとか言いくるめなきゃ)

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