ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 今までの経験上、ジークヴァルトは理屈が通って道理に叶っていれば、無理強いをすることはない。プレゼンに納得すれば、リーゼロッテの要求が通ることが数は少ないが何度かはあった。

 それに、先ほどマテアスが言っていたではないか。可愛くお願いすれば、万が一にでも許可がおりるかもしれない。

(せっかく動いたカークを元の場所に戻すわけにもいかないし)

 カークがあの場所にいない方が、使用人たちも作業がしやすいだろう。
 ここはもうジークヴァルトの母心と過保護魂をくすぐるしかない。恥ずかしいが、みなのためにもひと肌脱ごうとリーゼロッテは心を決めた。

 リーゼロッテは祈るように胸の前で両手を組み、上目遣いでジークヴァルトをのぞき込んだ。

「ヴァルト様、お願いです。カークには守るものが必要なのです。守るべきものを見つけるために、カークはあの場所から動いてくれたのですから」

 リーゼロッテは懇願するように目を潤ませた。

「このままではカークはまた自分を見失ってしまいます。わたくしも見ていて、本当に、本当に、つらいのです……」

 少しだけ目をすがめたジークヴァルトをじっと見つめる。

(きいてるわ、この子供のおねだり作戦。ここはあざとすぎるくらいが正解ね)

 恥ずかしがっている場合ではないと、リーゼロッテは畳みかけるようにさらにジークヴァルトをのぞき込んだ。

< 498 / 678 >

この作品をシェア

pagetop