ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「あああ、何しちゃってるんですか!ヴァルト様!」

 戻ってきたマテアスが青ざめた顔で、ジークヴァルトを止めようと部屋の中に駆け込んできた。そして部屋の中の惨状を目の当たりにし、頭を抱えて「ふおおぉ」と叫んでいる。

「おやおやこれは」

 後ろから家令のエッカルトが入ってきた。

 一緒に部屋へ入ってきた恰幅(かっぷく)のいいメイド服の女性が、抱き締めあっているジークヴァルトとリーゼロッテの前まで戸惑うことなく歩を進めた。

「はいはい、そこまでになさってください」

 彼女はメイドたちを取りまとめる公爵家の侍女長で、エッカルトの妻のロミルダだ。

 ロミルダはジークヴァルトの腕をリーゼロッテの体から引き離すと、リーゼロッテを抱きしめやさしくその髪をなでた。

「大丈夫でございますよ、リーゼロッテ様」
「ロミルダ……」

 震える声でその名を呼ぶ。リーゼロッテは肉付きのいいロミルダの胸に顔をうずめて、すがるようにぎゅっと抱き着いた。

「おかわいそうに、こんなに震えて」
「これはわたくしのせいなの……?」

 恐る恐る振り返って部屋の惨状を見やる。部屋の中は先ほどの騒ぎが嘘だったかのように静まり返っていた。しかし、ぐちゃぐちゃになった室内がその事実を突きつけている。

「いいえ、リーゼロッテ様のせいではございませんよ」
「むしろ問題なのは旦那様の方ですな」

 ロミルダが安心させるようにやさしい口調で言ったあと、エッカルトが厳しい視線をジークヴァルトに向けた。

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