ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 二人の背中を見送った後、エッカルトはジークヴァルトに向き直った。

「旦那様はこちらでわたしと少々お話を」

 口調は穏やかだったが、有無を言わせない笑みがその口元に乗せられていた。好々爺(こうこうや)(ぜん)としていても、やはり公爵家の家令は様々な修羅場(しゅらば)を経験しているのだろう。

「それにマテアス。その呆けた顔をどうにかしなさい」

 呆然自失の様子だったマテアスが、我に返ったようにエッカルトを見つめた。

「これがフーゲンベルクの呪い、ですか?」

 マテアスは似たような光景を、子供の頃に幾度も目にしていた。そう、あれはジークヴァルトが生まれる前のことだ。

 嵐が去った後のような荒れた部屋の中、頭を抱えながら修復の予算を計算する父。
 その先にいるのは前公爵、若かりし頃のジークフリートだ。そしてジークフリートの妻であるディートリンデが、いつも必ずその腕の中にいた。

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