ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 異形の者はフーゲンベルク家が後継を成すことを恐れている。ゆえに子供ができるような行為に及ぶと、それを邪魔しようと騒ぎ出すのだ。

 当主がさかる度に異形がさせるものかと暴れ出す。フーゲンベルク家を継ぐ者たちは代々これを繰り返してきた。これを呪いと呼ばずして何と呼ぼう。

「案ずるな、息子よ。呪いと言ってもいちばんに被害を被るのは、フーゲンベルク家の財政管理を担う者だけだ」
「それってどう考えてもオレってことだよねぇ!?」

 思わず従者の仮面が外れてしまう。

 エッカルトはマテアスの父親だ。マテアスの家系・アーベントロート家は、代々フーゲンベルク公爵家に仕え、家令として従事してきた。マテアスもエッカルトの跡を継いで家令となるべく、幼少期からジークヴァルトに仕えてきたのだ。

「わたしもジークフリート様には泣かされたものだ」

 エッカルトがしみじみと頷いた。

「何、家令となる者がみな通る道だ。アーベントロートの名に恥じぬ働きをするのだぞ、マテアス」
 肩をぽんと叩かれて、マテアスは部屋の中に視線を巡らせた。

 落ちて割れた額縁、砕けた花瓶、倒れたチェスト、割れたガラス、止まった背の高い置時計。目に入る物の修復・買い替えなどでかかる費用をざっと試算する。

 その金額にまずおののく。そしてそれが計算できてしまう自分が恨めしい。

「やりますよ! やればいいんでしょう!」

 マテアスは叫びながら、その天然パーマの髪をぐしゃぐしゃにかきむしった。

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