ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 今現在、リーゼロッテの力の制御の訓練はジークヴァルトがいるときだけ行っている。多忙を極めるジークヴァルトはそのためだけの時間を捻出できずにいたので、必然的にそれはジークヴァルトの執務中に行っていた。

 その執務をジークヴァルトの自室で行うとすると、その場でリーゼロッテとジークヴァルトがふたりきりになることもあるだろう。そして、ジークヴァルトの自室は、他の使用人たちの目が届かない場所に位置していた。

「そんなことしたら、異形の危険はなくても、リーゼロッテ様が超危険じゃないですか!」

 主にジークヴァルトの手によって。

「ご自制できますかな?」

 エッカルトはじっとジークヴァルトの顔を見つめた。

「いや、無理でしょう」
「まあ、無理でしょうな」

 マテアスとエッカルトの言葉に、ジークヴァルトはすいと顔をそむけた。

「成人されたとは言え、リーゼロッテ様はまだ社交界デビューもされておりません。大事なお嬢様をお預かりしている立場としては、やはり執務は居間で行うのがよろしいでしょうな」

 居間ならば他の使用人たちの目も行き届く。エッカルトの言葉に頷きながらもマテアスは、居間だろうとどこだろうと、ジークヴァルトとリーゼロッテを絶対にふたりきりにさせまいと心に誓っていた。

「リーゼロッテ様のご同意があるのでしたら、無下(むげ)にお止めはしないのですが」

 エッカルトは少し残念そうに言った。リーゼロッテの様子を見ていると、とてもそうとは思えない。

「そうなるためには、まずは旦那様がリーゼロッテ様に男性としてみていただかないといけませんな」

 エッカルトの苦言に、ジークヴァルトは再びふいと目をそらした。朴念仁の主の恋は、その後もかなり長期にわたって使用人たちをやきもきさせ続けるのであった。

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