ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 騒ぎの数日後、リーゼロッテはエマニュエルと共に自分の部屋へと戻るために長い廊下を歩いていた。

 仮の執務室の準備が整うまで、浄化の訓練はお預け中である。今は泣き虫ジョンに会いに行った帰りであった。

 ほかにやることといえば、与えられた自室で刺繍にいそしむくらいなので、正直暇を持て余している。エラはエラであちこち引っ張りだこになっているので、領地にいた頃のようにふたりでずっと過ごすわけにもいかなかった。

 お供を付ければ屋敷内や庭などは自由に散策していいと言われているが、それに付き合わされる使用人のことを考えると、あまりわがままは言えないでいた。

 異世界令嬢生活を続けて早十五年。リーゼロッテはいまだ日本人気質が抜けきらないままだ。

「リーゼロッテ様はもう迷われずに行き来できそうですね」

 後ろからついてきていたエマニュエルが微笑みながらリーゼロッテに声をかけた。

 屋敷は複雑な構造で、リーゼロッテは一度迷子になりかけた。しかし毎日のように通うジョンがいる裏庭への道のりは、だんだんと覚えてきてはいる。

「確かに、帰りはカークの気配で迷わず進めますわね。でも行きはまだ迷ってしまいそう」

 言っているうちに、カークの気配が濃くなっていく。進む先から漂ってくるのは、ふてくされ気味の心持ちだった。

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