ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 廊下を曲がるとその先にカークが扉の前で立つ姿が見えてきた。相も変わらず扉に額を押し付けて立っている。

「ただいま、カーク。今日の気分はどうかしら?」

 リーゼロッテがカークの背中にやさしく声をかけると、エマニュエルが続けて冷ややかに続けた。

「またふてくされて。それでは護衛にならないわ、カーク」

 エマニュエルは心底邪魔そうにカークを避けつつ内開きの扉を開けた。立ちはだかるカークの脇をすり抜けて、部屋の中に入っていく。

 別にすり抜けなくともカークを突き抜けて通ることはできるのだが、ビジュアル的にためらわれる。しかも、カークを通り抜けるときに、触れた場所から例のふてくされた感情がダイレクトに伝わってくるのだ。どんなに気分爽快な時でも、一瞬でテンション駄々下がりだ。

(三つ子の魂百までってやつかしら? カークの場合、もう何百年も経っているようだけど)

 カークは動いたものの、守りたい願望二割、ふてくされ気分八割で感情がぐるぐる巡っているようだった。リーゼロッテも苦笑いしながら、カークの脇をすり抜けて部屋の中へと足を踏み入れた。

 小柄なリーゼロッテは難なく通ることができるのだが、けしからんわがままボディの持ち主であるエマニュエルは、どうしても体の一部がかすってしまうらしい。

 ちなみにカークが見えないエラは、何事もなく出入りしている。不思議なことにエラが通るとき、カークの輪郭がふわりとぶれる。義弟のルカと同じく無知なる者のエラは、全く異形の干渉を受けていないようだった。

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