ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「でもどうしてカークは扉の前に立つのかしら?」

 部屋のソファに座りながらリーゼロッテは首をかしげた。横に避けるよう頼んでも、ずっと扉に額を押し付けている。

「旦那様に部屋を守るように言われたものの、カークは護衛の意味が分かってないのかもしれませんね」

 エマニュエルの淹れる紅茶の香りがふわりと広がった。

『なんだかまたおもしろいことになってるね』

 ふいに隣から声がかかり、リーゼロッテはびくりと真横を見やった。そこにはニコニコと笑うジークハルトがあぐらをかいて宙に浮かんでいた。

「まあ、ハルト様。なんだかお久しぶりですわね」

 リーゼロッテが驚きの声を上げると、エマニュエルが怪訝な顔でリーゼロッテを見た。

「リーゼロッテ様? そこに何かいるのですか?」

 ジークヴァルトの守護者であるジークハルトは、ジークヴァルトと自分にしか視えない。

 その事実を、リーゼロッテはついつい忘れてしまう。透けてはいるものの、それくらいジークハルトの存在はいつでもはっきりとこの目に映っていた。

「ええ、ヴァルト様の守護者がこちらにいらっしゃっていますわ。なぜだかわたくしには視えるようなのです」
「まあ、リーゼロッテ様も!」

 目を丸くしたエマニュエルは、心から驚いた様子だった。

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