ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 エマニュエルにはジークハルトの声は聞こえていない。合間にジークハルトが言葉をはさむので、会話がよくわからないことになっていることにリーゼロッテは気がついた。

「あ、エマ様。ハルト様が……」

 おろおろと自分と横の空間を交互に見ているリーゼロッテに、エマニュエルはすべてを察した。

「そこで旦那様の守護者が何か言っているのですね?」
「ええ。ごめんなさい、訳が分からないことを言ってしまって……」
「いいえ。大奥様もよく守護者と喧嘩をなさっていましたから」

 昔、ディートリンデも何もないところに向かって罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐いていた。エマニュエルは思い出し笑いのようにふふふと笑った。

『言ったろう? ディートリンデは怒らせると本当に怖いんだ。リーゼロッテも気をつけた方がいいよ』

 完全におもしろがっているジークハルトに、リーゼロッテはジト目を返した。

「守護者は何と言っているのですか?」
「ディートリンデ様は、その、怒らせると怖い方だと……」

 リーゼロッテの語尾がどんどん小さくなる。エマニュエルは思わず吹きだした。

「確かにそこにいるのは、旦那様の守護者のようですね」

 姑コワイ説が、確定になってしまった。リーゼロッテは八の字眉になって小さく身ぶるいした。いまだ挨拶もしていない未来の嫁に、どんな仕打ちが待っているだろう。

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