ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 カークから感じるのは純粋な感情だ。強い思いと言い換えられるかもしれない。

 対してジョンは、複雑な人生における葛藤が垣間見える。過去の出来事に裏打ちされた憂いのようなものを、リーゼロッテはジョンから感じ取っていた。

 強い思いを抱く異形の者という共通点はあるものの、両者は全くの別物のような気がしてならないのだ。

『まあ、カークはただの残留思念だしね』
「残留思念?」
『カークはね、騙されて恥をかいた男の残留思念だよ。あんなにあの場に焼き付いたんだから、よっぽど悔しかったんだろうね』

 よくあんなの動かせたね、とジークハルトは笑った。

(焼き付くだなんて、まるで写真のようね)

 同じ思いがぐるぐる回るカークは、無限ループの短いGIF動画のようなものだろうか。
 対してジョンは幾重にも複雑な感情が巡っていく。まるで長い映画のように。

「カークが残された誰かの強い思念と言うのなら、ジョンは亡くなった方そのものなのですか?」

 リーゼロッテは日本で言うところのいわゆる幽霊を思い浮かべた。

『まあ、そんなところかな? ジョンは選ばれし者だしね』
「選ばれし者? ジョンは何に選ばれたのですか?」
『さあ、何にだろうね?』

 ジークハルトはいつも謎かけのように話をはぐらかす。思わせぶりなことが多いので、ちょっとモヤモヤしてしまう。

 しかし、こうなるとジークハルトは何も教えてくれないので、リーゼロッテはあきらめて別の話題をふることにした。

< 521 / 678 >

この作品をシェア

pagetop