ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「それにしても、ハルト様はヴァルト様のお側にいなくてもよろしいのですか?」

 王城ではジークハルトは、大概ジークヴァルトの傍らで浮いていた。しかし、公爵領に来て半月ほど経つが、ジークハルトの姿を見たのは今日が初めてのことだった。

『別に側にいなくたって、ヴァルトが生きてるか死んでるかくらいはすぐわかるし。それにここは結びつきの多い土地だからね。どこにいたって同じことだよ』

 ジークハルトの言いように、リーゼロッテは目を丸くした。

(守護者って守護霊とはまったく別ものみたいね)

 自分の思う守護者は、常に背中に貼りついている背後霊的なイメージが強かった。ジークハルトの感覚とは少々違うのかもしれない。

(異世界だし、無理もないか)

 リーゼロッテはふわっと理解することにした。

「カークが残留思念なら、あそこからまた動かすのはむずかしいかしら……」

 ドアに張り付く異形を思ってリーゼロッテが独り言のようにつぶやくと、ジークハルトがおもしろいことを思いついた子供のような顔をした。

『アレはヴァルトが怖くてあそこから動けないんだよ』
「残留思念なのにですか?」
『強い思いだからこそ、消される恐怖が強いんじゃないかな?』
「じゃあ、ヴァルト様から言ってもらえれば、またカークを動かせるかしら? やっぱりもう少し自由に動けるようにしてあげたいですわ」

 しかし、この前おねだり作戦を決行したばかりである。それに先日の執務室の騒ぎの後処理で、忙しくしているジークヴァルトの手を煩わせるのもためらわれた。

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