ふたつ名の令嬢と龍の託宣
この絵が部屋にやってきてから、もう十年以上経つ。ソファに座ってぼんやりとしているとき、気づけばいつも彼女の笑顔を見上げていた。
自室とはいえ、自分のものなど何もないがらんとした部屋の中、彼女から届く物だけが増えていった。何気ない日常が綴られた手紙、時折届く手作りの贈り物。
背の低い棚には、それらが静かに飾られている。届いた手紙は何十通にもなった。その手紙をしまった箱は、いまでは十二個を超えている。
ジークヴァルトは一通の封筒をかさりと開けて、中から便せんを取り出した。
手習いの見本のような綺麗な文字が目に入る。自分の癖字とは違った美しく流れるような文字だ。
そっとその文字に指を滑らせると、彼女の波動が伝わってくる。心を込めて書いたのだろう。ふわりと指先が温かくなった。
贈り物をすると、彼女は律義にその都度手紙をくれた。やり過ぎも迷惑がられるとマテアスにたしなめられたが、騎士団の奴らから情報を仕入れては、女性が喜びそうなものを幾度も贈った。
公爵位を継いだ者として、婚約者への礼儀や義務のようなものだった。少なくとも初めはそうだったはずだ。だが、実のところどうなのだろう?
自分で自分がわからない。
彼女に再会してからと言うものの、自制がきかないことが増えてきている。今までそつなくやってきた。何に期待することなく、求められるままうまくやれてきたはずだった……。
自室とはいえ、自分のものなど何もないがらんとした部屋の中、彼女から届く物だけが増えていった。何気ない日常が綴られた手紙、時折届く手作りの贈り物。
背の低い棚には、それらが静かに飾られている。届いた手紙は何十通にもなった。その手紙をしまった箱は、いまでは十二個を超えている。
ジークヴァルトは一通の封筒をかさりと開けて、中から便せんを取り出した。
手習いの見本のような綺麗な文字が目に入る。自分の癖字とは違った美しく流れるような文字だ。
そっとその文字に指を滑らせると、彼女の波動が伝わってくる。心を込めて書いたのだろう。ふわりと指先が温かくなった。
贈り物をすると、彼女は律義にその都度手紙をくれた。やり過ぎも迷惑がられるとマテアスにたしなめられたが、騎士団の奴らから情報を仕入れては、女性が喜びそうなものを幾度も贈った。
公爵位を継いだ者として、婚約者への礼儀や義務のようなものだった。少なくとも初めはそうだったはずだ。だが、実のところどうなのだろう?
自分で自分がわからない。
彼女に再会してからと言うものの、自制がきかないことが増えてきている。今までそつなくやってきた。何に期待することなく、求められるままうまくやれてきたはずだった……。