ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 対峙(たいじ)するふたりに挟まれて、リーゼロッテは慌ててソファから立ち上がった。

 しかし立ち上がったところで、立っているジークヴァルトと浮いているジークハルトのにらみ合いを阻止できるはずもない。ただおろおろとふたりの顔を交互に見上げるほかなかった。

『ほら、リーゼロッテ。ちゃんとおねだりしなきゃ』

 楽し気な口調でジークハルトがリーゼロッテをのぞき込む。近すぎるその距離にジークヴァルトは舌打ちをしながら、リーゼロッテをぐいと自分の元に引き寄せた。
 その分、ジークハルトも距離を詰めて近寄ってくるものだから、リーゼロッテは完全にサンドイッチ状態になった。

「お前、一体何のつもりだ」

 低い低い声が部屋に響いた。こんなにも感情を(あら)わにしているジークヴァルトは見たことがない。怒気をはらんだ声音に、リーゼロッテは小さく身を震わせた。

 ジークハルトの方はというと、相も変わらず笑顔のまま飄々(ひょうひょう)と浮いている。ここまでくるとわざとジークヴァルトを怒らせているようにしか思えない。

 何を考えているかまるで読めないこの守護者は、こういった時は何を言っても暖簾(のれん)に腕押しだ。

 リーゼロッテはなんとかこの場を収めようと、ふたりに挟まれて狭い中、身をよじってジークヴァルトに向き直った。

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