ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 割って入るようにエマニュエルがリーゼロッテに手を伸ばした。驚いて見やると、いつの間にかエマニュエルとマテアスがこの場にやってきていた。

「何があったかは存じませんが、女性に対してそのように声を荒げるなど、紳士の行いではございませんわ」

 かばうようにリーゼロッテを胸に抱き、エマニュエルは(いさ)めるようにジークヴァルトに言い放った。

「ヴァルト様、一体何があったというのです? あなた様らしくもない」

 呆れとも安堵ともとれるため息とともに、マテアスはジークヴァルトを見やった。

「ジークハルト様がわたくしのためにヴァルト様をこちらにお呼びになったのです。ですから全てわたくしが悪いのですわ」

 半泣きになりながら、リーゼロッテはジークハルトの方へ視線を向けた。しかし、いつの間にやらその姿が消えている。さんざ引っかきまわしておいて、相も変わらずマイペースな守護者であった。

「そうだとしてもリーゼロッテ様に声を荒げるなど」
「いいえ、わたくしが悪いのですわ……お忙しいヴァルト様にご迷惑をおかけしてしまったのですから」

 本質はそこではないのだろうと、エマニュエルもマテアスも思っていた。執務を放り出してリーゼロッテのへ会いに行くなど、ジークヴァルトにとってはご褒美以外の何物でもない。

「旦那様、申し訳ございません。わたしも迂闊(うかつ)でしたわ。旦那様の守護者とリーゼロッテ様をふたりきりになどすべきではありませんでした」

 エマニュエルはリーゼロッテから離れて、ジークヴァルトに深々と頭を下げた。

「いや、いい。オレも言い過ぎた」

 ふいと顔を逸らすと、ジークヴァルトは普段通り無表情になった。そのままリーゼロッテに視線を向ける。

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