ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 その様子をぽかんと見ていたリーゼロッテは、はっと我に返ってジークヴァルトに歩み寄った。あんなに怒らせてしまったのに、自分の願いまで聞いてもらってしまった。しかもまだ謝罪のひとつもしていない。

「あの、ジークヴァルト様」
「また何かあったら遠慮なく言え」

 ぽんとリーゼロッテの頭に手置くと、ジークヴァルトはいつものようにやさしくその髪を梳いた。

「ヴァルト様……」

 結局、謝罪もお礼もできないまま、ジークヴァルトはマテアスを連れて仕事に戻ってしまった。カークは行儀よく扉の横で立っている。その背を見送りながら、リーゼロッテは小さくため息をついた。

「リーゼロッテ様。お部屋に戻りましょう」

 エマニュエルに促されて、リーゼロッテはとぼとぼとした足取りなのに不思議と優雅に見える所作で、部屋の中に入っていった。

< 537 / 678 >

この作品をシェア

pagetop