ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 居間での仮の執務室の準備が整ったため、リーゼロッテの力の制御の修行も数日ぶりに再開されることとなった。

 とはいえ、ジークヴァルトは相変わらず忙しそうにしている。特訓と言っても、手取り足取り教えてもらえるという具合にはいかず、リーゼロッテが力を使いすぎて倒れないように目を配るためだけに、執務中に特訓しているようなものだった。

 結局リーゼロッテは、自主トレと言う名の不毛な特訓に(いそ)しむよりほかはなかった。リーゼロッテにできる事と言えば、害のない小鬼に手をかざし、小鬼の目をきゅるんとさせるのがせいぜいだ。

(王城にいた頃と、何も進歩してないっ)

 がっくりとうなだれるが、ジークヴァルトが見本でやって見せたようにはうまく力が集められない。

(ヴァルト様はあんなにも易々(やすやす)とやってのけるのに)

 それがくやしくてたまらない。だがやる気と負けん気だけでどうこうできるわけもなく、自分のふがいなさに落胆する毎日だった。

『リーゼロッテってホント要領悪いよね』

 となりでふよふよ浮いていたジークハルトが楽しそうに言った。

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