ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 あの日以来、ジークヴァルトはこの守護者のことを徹底的に無視している様子だ。ジークハルトはそれを気に留めるでもなく、今まで通りそばにいたりいなかったりと相変わらず自由にしている。

「どうしてもうまく力が集められないのです……」

 しゅんとしながらリーゼロッテは自分の小さな手のひらをじっと見つめた。ジークヴァルトはここにぱっと集めてきゅっと縮めてポンと出せるのに。

 うつむいて落ち込んでいるリーゼロッテの背後に、ジークハルトがすぃっと忍び寄った。そのままリーゼロッテの耳元に顔を寄せたと思うと、ジークハルトはすうっと大きく息を吸う動作をした。

『わっ!』
「ひゃあ」

 ポン!

「なっ」

 突然のことでリーゼロッテは呆然とした。いきなりジークハルトに耳元で叫ばれ、驚いた途端、手のひらからポンと力が飛び出したのだ。
 目の前で広げた両の手のひらから放たれた力は、リーゼロッテの蜂蜜色の長い髪をふわりと舞い広げた。

「リーゼロッテ様、大丈夫でございますか?」

 マテアスが仕事の手を止めて心配そうにこちらを見ている。

「え、ええ。ハルト様が耳元で突然大きな声を出されて、わたくし驚いてしまって」

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