ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 マテアスにはジークヴァルトの守護者の存在を感じることはできないが、リーゼロッテがひとりで会話をしている様を仕事の傍ら先ほどから聞いていた。

 エマニュエルが言っていたように、リーゼロッテには本当に守護者が見えるのだと、マテアスは内心驚きを隠せない。

(あのジークフリート様でさえ、ご自分の守護者の姿を見ることはおろか、声を聞くことすら叶わなかったというのに……)

 歴代の当主の中でもジークヴァルトの能力は抜きんでている。その託宣の相手に選ばれたリーゼロッテも規格外の力の持ち主ということなのだろうか。

 リーゼロッテは自分の手のひらを不思議そうにじっと見つめている。

(あれだけの力をお持ちなら、異形の浄化にこだわらなくてもいいような気もするのですがねぇ)

 どのみち自分の(あるじ)は、何があってもリーゼロッテを守り切るだろう。マテアスはそう思うのだが、リーゼロッテはどうしても浄化ができるようになりたいようだった。

 マテアスはちらりと主の様子を伺った。先ほどからジークヴァルトは、眉間にしわを寄せながらガリガリと書類にサインを続けている。

(めちゃくちゃ気になってるくせに)

 リーゼロッテの様子など意に介さず仕事を続けているふうを装っているが、全身の神経はリーゼロッテに向いているのがビンビンに伝わってくる。

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