ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 修理から戻ってきた背の高い置時計の設置を終えて、マテアスはふうと額の汗をぬぐってから満足げに頷いた。長い振り子が左右に揺れて、時計はカチカチと時を刻んでいる。

 ぐるりと執務室を見渡してみる。
 完璧だ。何もかも元通りになった。いや、それどころか、気になっていた調度品の(いた)みなどもこの際一気に手直しを加えたので、新たな執務室に生まれ変わったといえるだろう。

 公爵領は馬の産地として知られているが、優秀な家具職人が多くいることでも有名であった。公爵家ブランドの高級家具があるくらいで、いまや王家ご用達のセレブの象徴にもなっている。家具の修理はお手の物なのだ。

 あとは仮の執務室から書類を運びこめば、今まで通り滞りなく執務が進められる。実に完璧だ。

 マテアスは生まれ育ったこの公爵家で、以前から疑問に思うことがひとつあった。 
 歴史の長い公爵家には、かなり年季の入った調度品が数多くある。代々に渡って受け継がれ、それらは大事に使われてきた。

 にもかかわらず、そこかしこに明らかに年代が違うものや不自然に新しい調度品が混じっているのだ。

 代替わりがあれば、主の趣味で家具が刷新(さっしん)されることは貴族ではままあることだが、それにしても新旧入り乱れすぎている。統一感がないわけではないが、アンティークに詳しい者が見たら眉を(ひそ)める程度には、そこかしこがおかしなことになっていた。

 例えば、居間。例えば、エントランスのホール。例えば、食堂。例えば、書庫。例えば廊下……。

 今回の執務室をはじめ、日常で利用頻度が高いと思われる場所は、もれなくそんなちぐはぐなことになっていた。

 マテアスは今回改めてその事実を認識し、そして、おおいに戦慄した。これは歴代の当主たちが、そこかしこで()()()をしてきた名残なのだと。

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