ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 使用人たちに仮の執務室から書類等を移動させ、いよいよ執務室の本稼働とあいなった。

 マテアスは今回の騒ぎの元凶であるジークヴァルトに、もう一度くぎを刺しておく。

「旦那様、あのような騒ぎはもう二度と御免ですからね」
「問題ない。やつらの線引きはもうわかっている」

 ジークヴァルトは涼しい顔で返事をした。

 ジークヴァルトの言う『線引き』とは、リーゼロッテにどのような(よこしま)な感情を持つと異形が騒ぎ出すのか、そのギリギリのボーダーラインがどこにあるのかということだ。

(リーゼロッテ様の前では理性を抑えられないくせに)

 いざとなったらどうなるかわからない。心の中では胡乱(うろん)な視線を返しつつ、マテアスは

「頼もしいお言葉、痛み入ります」と慇懃無礼に腰を折った。

< 551 / 678 >

この作品をシェア

pagetop