ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークハルトは、すいと手を伸ばすと、手首から下だけをジークヴァルトのそれに重ねた。ジークハルトとジークヴァルトが、手首から先だけ合体した、なかなかシュールな光景だ。

 ジークハルトが満面の笑みを浮かべると、書き仕事を続けていたジークヴァルトの手から、ポロリとペンが滑り落ちる。

「おい」

 ジークハルトはジークヴァルトとつながったままの両腕を持ち上げて、そのままリーゼロッテへと手を差し伸べた。ジークヴァルトは引っ張られるように否応なしに立ち上がらせられる。

「おい、いい加減に」

 ジークヴァルトの口から抗議の声が上がるが、ジークハルトはかまわずその両手でリーゼロッテの頬を包みこんだ。仕上げにジークヴァルトの右手の親指をリーゼロッテの下唇に添えさせる。

 そこまでするとジークハルトは、ジークヴァルトから分離してすぐさま離れていった。

 両頬を大きな手で挟み込まれた状態で、リーゼロッテはしばしジークヴァルトと見つめ合っていた。

 しばらくするとジークヴァルトは無表情のまま、リーゼロッテの唇に添えた親指をふにふにと動かし始めた。まるでその柔らかさを確かめるように。

「ヴぁ、ヴァルト様」

 ぼんっと真っ赤になったリーゼロッテが、その指から逃れようと首を振る。両頬を固定したままの状態で、ジークヴァルトはその感触が気に入ったのか、無表情のままふにふに親指を動かし続けた。

(くちびるくちびる、いじらないで~!!!)

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