ふたつ名の令嬢と龍の託宣
王族主催の夜会で王太子が踊らないとなると、物議を醸すのは目に見えている。だが、そんなことは些事だった。
その方が気が楽だったし、何より今回の白の夜会には、アンネマリーもデビュタントとして出席する。
顔を合わせないでいることは恐らく無理だろう。白の夜会で社交界デビューを果たす者は、全員もれなく王族に挨拶をするしきたりだった。
最後に会った日の彼女の顔が目に焼き付いて離れない。ハインリヒは無意識に唇を噛みしめた。
(わたしは彼女をひどく傷つけた――)
もっと穏便に済ませる方法はあったはずだ。王太子として、今までやってきたように、それができて当然だった。それなのに、あの日、自分を律することができなかった。
いつか彼女に触れてしまう。ハインリヒはそんな自分に恐怖した。
(――アンネマリー……)
自分にはもう、その名を呼ぶ資格などありはしない。分かっている。分かっているのに、気づくとあの日の彼女が脳裏に浮かぶ。今にも泣きそうな彼女の顔が。
自分の弱さゆえに、彼女をいたずらに傷つけたのだ。殿下の庭で見たあの愛おしい笑顔を、自分は二度と取り戻せないだろう。
雑念を振り払うかのように、ハインリヒはぎゅっとまぶたを閉じた。しばらく息を詰めてから、大きく息を吐く。
「どのみち、カイを王城にとどめておけるのは、白の夜会までだ。夜会後ヴァルトには、通常通りわたしの警護に戻ってもらう」
「ああ、わかっている」
その方が気が楽だったし、何より今回の白の夜会には、アンネマリーもデビュタントとして出席する。
顔を合わせないでいることは恐らく無理だろう。白の夜会で社交界デビューを果たす者は、全員もれなく王族に挨拶をするしきたりだった。
最後に会った日の彼女の顔が目に焼き付いて離れない。ハインリヒは無意識に唇を噛みしめた。
(わたしは彼女をひどく傷つけた――)
もっと穏便に済ませる方法はあったはずだ。王太子として、今までやってきたように、それができて当然だった。それなのに、あの日、自分を律することができなかった。
いつか彼女に触れてしまう。ハインリヒはそんな自分に恐怖した。
(――アンネマリー……)
自分にはもう、その名を呼ぶ資格などありはしない。分かっている。分かっているのに、気づくとあの日の彼女が脳裏に浮かぶ。今にも泣きそうな彼女の顔が。
自分の弱さゆえに、彼女をいたずらに傷つけたのだ。殿下の庭で見たあの愛おしい笑顔を、自分は二度と取り戻せないだろう。
雑念を振り払うかのように、ハインリヒはぎゅっとまぶたを閉じた。しばらく息を詰めてから、大きく息を吐く。
「どのみち、カイを王城にとどめておけるのは、白の夜会までだ。夜会後ヴァルトには、通常通りわたしの警護に戻ってもらう」
「ああ、わかっている」