ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「お待たせいたしました、義母上」

 応接室に入ると、優雅な姿勢でイジドーラ王妃がソファに腰かけていた。その後ろに控えているのは古参の女官だ。

 ハインリヒが向かいのソファに腰かけると、後ろをついてきたカイは、ハインリヒの後ろに控えるように立った。そのカイの足元を弱そうな小鬼が三匹ちょろちょろとうろついている。

 その小鬼たちはやけにおめめがきゅるんとして愛らしく見える。リーゼロッテが浄化できないまま別れた小鬼たちだ。この異形たちは、あれ以来王太子の応接室に住み着いて、そのまま放置されていた。

 小鬼たちはハインリヒが座るソファの陰から、こそこそとイジドーラ王妃を覗き見ている。気になるが近づけない。そんな様子だった。

 イジドーラ王妃には、王の守りが張り巡らされている。恐らくはその影響だろうと、カイは小鬼たちをちらりと見やった。そしてハインリヒに視線を戻す。

 普段から、自分の近辺に女性が出入りするのを好まないハインリヒは、王妃に対して愛想笑いのひとつもしようとする気も失せてしまう。それでも何とか張り付けたような笑顔を繕った。

「何度も申し上げていますが、面会の際には先ぶれを出して頂かないと、むやみにお待たせすることになりますよ。それに、義母上自らご足労頂かなくても、言って頂けたらこちらからお伺いさせていただきます」
「あら、そんなことしていたら、ハインリヒに会えるのは一年先になってしまうじゃない」

 親子と言えど王族の面会は、予定の調整などで申請から面会まで時間が掛かる。しかし数日から掛かっても一週間程度だろう。

 暗に面会時は予約を取れと言ってみるが、まったく意に介さないイジドーラを前に、ハインリヒは今度こそ大きなため息をついた。

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