ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「この数ですし、一週間……いえ、五日ほどいただければ」
「あら、意外と早いのね。うれしいけれど、無理はしないでちょうだい。かわいいハインリヒに倒れられては困るもの」

 一拍置いたイジドーラは「だけれど……」と、思わせぶりに切れ長の薄い水色の瞳を細めてみせた。
「うぅんと、心を込めてちょうだいね」

 そう言ってイジドーラは、この日一番の妖しい笑みをハインリヒに向けたのだった。


 王妃の離宮に戻る道すがら、今まで黙っていた女官が感慨深げに口を開いた。

「ハインリヒ様は、ますますセレスティーヌ様に似ておいでになられましたね」
「そうね……一度、ハインリヒに化粧を施して、ドレスで着飾らせてみたいものだわ」

 この王妃なら本当にやりかねない。
 女官は慌てて「そのようなお戯れを」とイジドーラを(たしな)めた。

「冗談よ」

 イジドーラの蠱惑の唇がにやりと弧を描いたその瞬間、執務室に戻ったハインリヒの背中に悪寒が走ったのだった。

< 567 / 678 >

この作品をシェア

pagetop