ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
「あれ? ハインリヒ様、風邪でもお召しになられましたか?」

 執務室に戻り椅子に腰かけるなり背中をぶるりと震わせたハインリヒを見て、カイは軽く小首をかしげて見せた。

「いや、大丈夫だ」

 突然の悪寒に戸惑いつつも、王太子として体調管理をきちんとしている自負はある。ハインリヒは問題ないとばかりに、書類仕事の手を進めた。

「ハインリヒ様は最近働きづめですから、たまには気分転換なさってはいかがです?」
「お前は書類仕事に付き合わされるのが嫌なだけだろう?」
「うわ、人の好意をそんな風に取るなんて。そんなんじゃ下の者はついてきませんよ」

 図星を刺されたくせに、カイはしれっとそんなことを言ってくる。

「今日は一日ここに籠るつもりだ。カイは好きにするといい」
「そんなことできるわけないじゃないですか。職務放棄でキュプカー隊長にどやされるのは勘弁です。どうですか?ハインリヒ様も久しぶりに騎士団の訓練に顔を出されてみては?」

 ジークヴァルトは先ほど騎士団の訓練場に向かって行った。何でも今日の訓練に、知り合いの子供が見学に来るらしい。

「たまには体を動かして、ストレス発散するのもいいじゃないですか。ねー行きましょうよーハインリヒさまー」

 子供のようにねだってくるカイに、ハインリヒはこんな時だけ調子がいいとあきれながらも、「しょうがない奴だな。だが一時間だけだぞ」、そう言って立ち上がった。

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