ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 騎士団の訓練場は、王城のはずれに位置している。基本的に訓練は屋外の専用の広場で行うが、今日のように雨の日は屋内で行うことが多かった。

 屋内と言ってもかなりの広さがある。この国は一年の半分は雪に閉ざされるため、屋内でも十分訓練が行えるように備えられていた。

 本日は三十名ほどの団員が訓練を行っていた。王太子付きの近衛第一隊の面々は、急な公務の取りやめにより臨時休暇が認められたため、ここにいるのはその他の王城警備にあたる騎士たちだった。

「うわ、なんでフーゲンベルク副隊長が訓練に参加してるわけ? 今日、第一隊は王太子殿下の警護だろう?」
「この雨で公務が取りやめになったんだってさ。第一隊の奴らはうらやましいことに臨時休暇がもらえたって」
「なんだそれ、うらやましすぎる。だったら副隊長も休んでればいいのに」
「だよな。今日はこの雨で麗しの令嬢たちの見学もほとんどないし、やる気なんかまったく出そうにない」
「しかもキュプカー隊長が指導に入るなんて、地獄かよ」
「オレ、それが嫌で城内勤務を希望したのに……」

 フーゲンベルク副隊長は側にいるだけで威圧感がハンパないが、精神的に恐ろしいだけで特に実害があるわけではない。
 その点、キュプカー隊長は訓練が厳しいことで有名だった。しかも一度怒らせるとそれはそれは恐ろしい目にあわされる。

「おい、そこ! 無駄口叩いてないで体を動かせ!」

 すかさずキュプカーの怒声が鍛錬場に響いた。
 騎士一同がびくりと体を震わせ、一層きびきびと鍛錬に励みだした。もう今日は黙って諦めるしかない。誰もがそう観念したとき救世主がひとり現れた。

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