ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「エマニュエルは()()アデライーデ様の制御の指導も経験しておりますし、旦那様の前で行えば、想定外の事態にもきちんと対応できるかと」

 あくまでジークヴァルトの指示の元で行うことをエッカルトは強調した。

「アデライーデ様は力の制御ができるようになるまで、かなり時間がかかりましたからねぇ」

 マテアスがしみじみとした様子で言った。

 アデライーデはとにかく力の制御が苦手な子供だった。異形の浄化も常にオーバーキルだ。どんな小物にも全身全霊の力をもって焼き尽くす。そんな勢いの子供であった。

『一回オレも巻き沿い食らいそうになったっけ。あの時はちょっとやばかったなぁ。さすがはディートリンデの娘だけはあるよね』
「力尽きてところかまわずお眠りになっていらっしゃったものね」

 エマニュエルもしみじみと言った。その口調にはマテアス以上の感慨が含まれている。

 公爵令嬢にもかかわらず、アデライーデは疲れたらどこでもかまず寝てしまうのだ。
 力の使い過ぎで行き倒れているのであるが、事情を知らない者からしたら、やんごとない公爵令嬢の一大事である。そのたびにアデライーデを回収しに行くのは、もっぱらエマニュエルの役目だった。

 成人してからもしばらくはそんな調子だったので、社交界でアデライーデはフーゲンベルクの眠り姫と呼ばれていた。
 そんなご令嬢がいまや王城騎士として立派に職務を果たしている。感慨深くもなるというものである。

「決して無理は致しません。どうか一度わたしにリーゼロッテ様をお任せいただけませんか?」

 エマニュエルは同じことを繰り返すのが怖かった。
 アデライーデも無茶なことばかりしていたが、命に関わるような力の使い方をすることは決してなかった。普通は無意識に自分の力をセーブするものだが、リーゼロッテは無知がゆえにその恐ろしさを自覚できていない。

『嫌なら四六時中離さないでいればいいのに。ジークフリートなんて始終べったべただったし。アデライーデを身ごもったのだって、ディートリンデが十六の時だよ? ヴァルトだって我慢することないんじゃない?』
「いかがですかな? 旦那様」

 多勢に無勢とはこのことか。ジークヴァルトは途中で茶々を入れるジークハルトに対して眉間にしわを寄せつつも、観念して了承の意を伝えたのだった。

     ◇
< 586 / 678 >

この作品をシェア

pagetop