ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「昨日、ルカは王都に来ていたのよね?」
「はい。ルカ様は王城へ騎士様の訓練の見学に行かれていたようです。昨日はお会いできなくて残念でした」
「そうね……。でもジークヴァルト様がルカの見学にお付き合いしてくださるっておっしゃっていたから、後でお話をお伺いしましょう」
「そうですね。ところで、お嬢様……お加減はいかがですか? もしお辛いようなら、もう少し横になっておられますか?」

 リーゼロッテがまったく茶菓子に手を付けていない様子を見て、エラが心配そうに言った。

「大丈夫よ、エラ。昨日は急な雨に少し濡れただけだから」

 リーゼロッテはエラを安心させるように微笑んだ。
 しかしその胸中は複雑だ。いちばんと言ってよいほど信頼を寄せているエラに、ここのところ嘘ばかりついている気がする。

 話したくても話せない。王子には龍の託宣については他言無用と命令されている。異形の者や自分の力のことに関しても言えないことが多すぎて、どうにもそれが後ろめたかった。

「ですが、お嬢様がこの菓子にお手をお付けにならないなんて……。やはり体調がよろしくないのでありませんか?」

 茶菓子として用意されていたのは、リーゼロッテがいつもならよろこんで食べるチョコレートの菓子だった。瞳を輝かせてその菓子を口にするリーゼロッテは、それはそれは愛らしいのだ。

 エラの言葉にリーゼロッテの瞳が動揺したように揺れ動いた。
 もちろんそれを見逃すエラではない。リーゼロッテの異変に、前のめりですぐさまその手を取った。

「お嬢様。何かお悩みでもございますか?慣れない環境でお疲れがたまっていらっしゃるのではありませんか?」

< 588 / 678 >

この作品をシェア

pagetop