ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「まあ、お嬢様。お嬢様はまったくお太りになどなっておりませんよ」

 始終心配顔だったエラは、すっかり安堵の表情に変わっている。

「でも最近、ドレスが少しきつく感じるのよ」
「お嬢様は少しずつですが、以前よりも女性らしい体つきになられていますからね。決して太った訳ではございませんよ。旦那様にお願いして、新しいドレスを新調していただきましょう。それまではわたしが今あるドレスを手直しして、動きやすいよう仕立て直しますから」
「本当に? わたくし、太ったのではない?」

 自分のことを常に手放しでほめるエラの言葉を、そのまま受け取っていいものだろうか。リーゼロッテはいまだ半信半疑だ。
 エラが嘘を言うとはもちろん思っていないが、分厚い溺愛フィルターがかけられている事実を、きちんと差し引かなければならないのだ。

「もちろんでございます。その証拠にウエストはきつくはございませんでしょう?」

 言われてみればお腹周りは不思議ときつくは感じない。エラの言うように、肩幅や胸まわりが成長しているということだろうか?

「わたしもそのような大事なことに気が回らず、本当に申し訳ございません。早速今日から仕立て直させていただきます」
「とりあえず気をつけて動けば問題ないから、無理はしなくていいわ。エラはそれでなくても頑張ってくれているもの」
「いいえ、お嬢様! お嬢様のためなら、このエラに無理などという言葉は存在いたしません!」

 エラの鳶色の瞳がメラメラと燃え上がった。エラのスキル・お嬢様至上主義の発動だ。

「さ、お嬢様、ご心配なさらずこちらのショコラをお召し上がりください。ああ、紅茶が冷めてしまいましたね。今すぐ淹れ直して参ります!」

 ここから炊事場が近いこともあり、すぐに戻りますと言ってエラはサロンを後にした。

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