ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 不意にジークヴァルトがクッキーを差し入れる手を止めて、リーゼロッテをじっと見つめた。唇にクッキーのかけらが残っている。
 どうしてか自分が食べさせるといつも唇を汚してしまう。こんなにも小さな口で、彼女はいつもとても綺麗な食べ方をするというのに。

 薔薇色の頬に手を添えてそっとその唇を親指で払う。触れるか触れないかの力加減で、クッキーのかけらははらりと落ちた。
 リーゼロッテは黙っておとなしくしている。これはもっと触れてもいいということだろうか?

 ジークヴァルトの心の動きと共に、周りにいた異形たちがざわりとうごめき始める。

「ふおぉっ! ヴァルト様、そこまでです!」

 執務室の調度品がかちかち鳴り出したを見て、マテアスが慌ててジークヴァルトを止めに入った。

「え?」

 リーゼロッテが我に返ったように顔を上げると同時に、ジークヴァルトがマテアスを睨みつけた。
 これ以上執務室を破壊されたくないマテアスは必死の形相だ。妨害が功を奏してか、執務室はすっと静けさを取り戻した。

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