ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 クッキーはまさにリーゼロッテ好みの味と食感だった。ぱさぱさとしていたクッキーは、しっとりとしてメルティで甘さも上品なものに変わっていた。

 こちらが頼んだわけでもないのに、エラはいつも先回りしてリーゼロッテのために動いてくれる。そしてそれをひけらかすこともない。あくまで自然に、リーゼロッテが気づかないうちにすべては行われるのだ。

「エラ、本当にありがとう」

 その言葉だけで、その笑顔だけで、エラは天にも昇る気持ちになる。侍女として自分にしかできないことがもっとあるはずだ。リーゼロッテの笑顔を前に、改めてエラはそう思っていた。

「これならたくさんでも食べられそう」

 思わず漏らした言葉に、リーゼロッテ自身がはっとなる。再びクッキーに手を伸ばそうとしたジークヴァルトが目に入り、リーゼロッテは慌てて言葉を付け足した。

「ですが! あーんは、一日一回までですわ!」

(リーゼロッテ様も学習なさっておいでだわ)

 黙って見守っていたエマニュエルがそんな様子にそっと微笑んだ。ジークヴァルトを囲んで、こんな微笑ましい光景が見られるなど、今まで考えられもしなかった。

「しつこい殿方はおもてになりませんよ、旦那様」

 いつもはマテアスが言うような台詞をエマニュエルが言うと、ジークヴァルトは一瞬動きを止めてからふいと顔を逸らした。どうやら餌付けは諦めたらしい。

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