ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 ソファに座ったままエマニュエルを見送ったリーゼロッテは、もう一度紅茶に手を伸ばしのどを潤していた。ほうとため息が出る。やはりエラが淹れてくれる紅茶がいちばんだ。

(エデラー夫人のご容体、たいしたことないといいのだけれど……)

 うつむき加減で小さくため息をつくと、ぱたんと扉が閉まる音がした。マテアスが戻ってきたのだろうと気にも留めなかったのだが、一向にマテアスが入ってくる様子はない。

 不思議に思って扉の方に顔を向けると、そこには扉を背にして立った状態で浮いているジークハルトがいた。じっとこちらを見つめている。

「ハルト様? いらしていたのですか?」

 何か違和感を覚える。
 そう思ったリーゼロッテは、ジークハルトの顔にいつもの笑みがないことに気がついた。笑みどころか表情がない。その姿はまるでジークヴァルトのようにも見えた。

(いつもニコニコしているハルト様が……何かあったのかしら?)

 具合でも悪いのかとさらに何か声をかけようとしたとき、それまで無表情で黙って見つめていたジークハルトが、にこっと笑みを作った。

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