ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 その瞬間、リーゼロッテは耳の奥に衝撃を受けた。飛行機に乗ったときのような、耳の奥が詰まったような感覚だ。

 思わず両手で耳を抑える。耳だけではなく何か空気に閉塞感のようなものを感じて、リーゼロッテは浅い呼吸を繰り返した。

(なにこれ……なんだか息苦しい……)

 異形たちも落ち着きがないようにそわそわとした様子をしている。リーゼロッテは反射的に執務机に座るジークヴァルトを仰ぎ見た。

「お前っ……何のつもりだ!」

 鋭い声と共に立ち上がったジークヴァルトの視線が、守護者の元に向けられた。

 リーゼロッテもつられて視線を戻すと、ジークハルトが泳ぐように、すい、とこちらに向かってきていた。その指先を伸ばして、今にもリーゼロッテに触れようとする。
 その間にジークヴァルトが体をねじ込むように入り込んだ。

「――……っ!」

 ジークヴァルトの背中越しに、ジークハルトが楽しそうに笑っているのが垣間見えた。次の瞬間、伸ばした手をそのままに、ジークハルトはジークヴァルトの体に重なった。

 ジークヴァルトの輪郭がぶわっとぶれたように見えた後、その体が一度大きく揺らいだ。その一瞬、目の前で突風のような空気の衝撃を感じて、リーゼロッテは咄嗟に両腕で頭をかばった。

 しばし重苦しいほどの沈黙がおりて、リーゼロッテはその目をそっと開いた。

 見上げると目の前に、リーゼロッテを守るように立つジークヴァルトの背中があった。周りを見回すがそこにジークハルトの姿はない。また気まぐれで出ていったのだろうか?

「甘すぎだ」

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